<なな会だより>近況報告リレー “有村香澄さん”【後編】

有名女優と読みは同じでも漢字は違う有村香澄

同姓同名の本名で役者を続けてきた彼女は2022年度、所属する団体「みやざき演劇若手の会」の代表を卒業する。

宮崎公立大学で演劇の楽しさを自覚し、

「演劇は普段の生活にもつながっているし、生きていることにもつながっている」

と話す有村さんにとって、若手の会卒業は次へのスタートライン。卒業公演と位置づける2月の舞台へ向けて稽古を続ける有村さんに話を聞いた。

今回は最終回♪※前回分は下記からご覧いただけます。

<なな会だより>近況報告リレー “有村香澄さん”【中編】

後輩「役者じゃなくてもいいんで!」

カナダ留学から戻り、大学を卒業した有村さんは、幼稚園で英語教諭として働いていた。
子どもたちに囲まれる中での仕事は充実していた。でも、もう演劇はしていない。

「カナダから戻った後、数ヶ月だけ劇団に所属したことがあったんです。劇団といっても2人だけなので、役者だけじゃなくて制作的な裏方のこともやらないといけない。そこで自分自身に制作的な能力が足りないことに気付かされたんです。仕事との両立も難しいなと思って、演劇から離れることを決めました」

仕事を始めれば演劇とも距離を置く言い訳ができる。

あわよくばこのまま演劇からは離れようとさえ思っていた。

以前と比べれば静かとも言えるような生活に入り込んできたのは・・・・・

先輩、ではなく後輩だった。

新藤アヤノさんと

後輩とはいっても違う大学の演劇部に所属している当時2年生の進藤アヤノさん。

卒業前に少しだけ参加した「劇団ゼロQ」で知り合った大学生だった。

進藤さんは有村さんの気持ちを知る由もなく、当たり前のように連絡をしてきた。

進 藤 「演劇部で公演することになったんですけど、一緒にやりませんか?」

有 村 「ごめん、私はしばらく演劇やめるんだ」

進 藤 「スタッフだけでもいいんで!役者じゃなくてもいいんで!」

そんなやり取りが続いて、最後は「まんまと誘われた」

裏方での参加とはいえ、一度演劇に関わってしまえば後はなし崩し的。

翌年、今度は熊本県で開催される演劇大会への誘いを受けた。進藤さんが書く脚本での出演だった。

「演劇から離れるって決めてたのに、もう一度やっちゃっている。そうやって声をかけてくれるなら、やってみようかなって思えた。なんだかんだで、前の公演も大変だったけど楽しかったから」

進藤さんに誘われて出演した舞台の一幕

久しぶりの舞台。

セリフを読み解き、ト書きの意味を考え、役の深いところまで理解しようと試みた。
順調に役作りも進んでいる手応えを感じていた中、大会が直前に迫った日の稽古で、演出も務める進藤さんと解釈の違いに気づいた。

大会まで時間もない中で、発覚した演出家との認識の違い。

結論が出ないまま、その日の稽古は重い空気のまま終わった。

進藤さんが書く作品は、進藤さんがこれまで感じてきたことが大きく反映されているのが特徴。その進藤さんと何度も対話を繰り返したけど、結論は簡単に見つけられなかった。答えが出せない状況のまま会場入り。本番中も答えを探しながら演技を続けた。

結果は、全10組中、1位にたった1票差の2位。

「考えて想像しなきゃ役に近づけないなと思ったから、結果的に自分に嘘なくできたんだと思うんです。演劇が『ただ楽しい』だけじゃなくて、しっかり稽古をしたっていう充実感があった。それまでは演出家の言うことを聞くだけだったけど、このときは他の役者も巻き込んで作品のことを話し合った。稽古ってただセリフや動きを覚えるだけじゃないんだって思うと、やっぱりもうちょっと芝居やりたいなっていうのが芽生えてきました」

幼稚園での英語教諭も3年目となり、一区切りつけてもいいと感じていた。そのタイミングで盛り上がった演劇への熱情は抑えられない。

2020年、仕事を辞め、宮崎県都城市を活動拠点とする「劇団こふく劇場」に入団した。

生活の中で演劇を感じる

劇団こふく劇場は、宮崎県立芸術劇場の演劇ディレクターを務めた永山智行さんが中心となって1990年に結成。
有村さんが入団した2020年時点ではすでに活動は全国へと広がり、宮崎県内で続ける演劇の教育・普及活動は高い評価を受けていた。まさに、宮崎を代表するような劇団だった。

そんな劇団の研究生になったものの、世の中は、コロナ、三密回避、自粛、延期ばかり。もちろん劇団も例外ではなかった。
主だった活動は延期となり、「なんで仕事辞めたんだろう」と思うこともあった。

2016年から所属していた若手の会も同じだったが、やれることを模索していた。ワークショップや演劇の企画には率先して動いた。

そんな経緯から、会員の投票で決まる会長選挙でも有村さんの予想通り、会長に就任した。年齢的にも任期2年の会長が終わるときは、会を卒業するタイミング。慣習的に卒業公演をするという若手の会の大義名分を使って、最後にやりたいことは決めていた。

「進藤さんが書いた脚本で卒業公演がしたい」

有村さんのわがままを受け入れてくれた進藤さんが書き下ろした新作「すももが落ちても花は香る」。
障害を持つ人や看護師などさまざまな人にコロナ禍で感じた生きづらさをインタビューし、「こうやって生きていくのもいいよね」という会ならではのメッセージを描き出す。

一方で、卒業後のことも考えている。1年ほど前から佐賀県の俳優・松永檀さんとユニット「はまっくす」を組んで活動。
似たような演劇観で意気投合した2人は宮崎と佐賀の遠距離をものともしない。それぞれが得た演劇スキルを持ち寄り、互いに高め合おうとしている。

「今は、こふく劇場、若手の会、ユニットの3つだから大変だけど、1つが終わればやりたいことをしっかり考えられる時間もできてくる。最近は、普段の生活の中にも演劇につながるものがあるなって感じるんです。演劇と自分の体がつながる、そんなことをこれからもやってきたい」

さまざまな人との出会いで演劇の楽しさを知り、演劇を深めてきた有村さん。

卒業公演は、有村さんにとって次への始まりとなりそうだ。

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