<なな会だより>近況報告リレー 16期生”大久保武尊さん”【前編】

夢に挫折して辿り着いたサードプレイス自分を好きでいられる場所を目指して

宮崎県宮崎市の若草通りにあるカフェバー「アクターズスクエアコーヒー」
宮崎の文化の発信拠点として常に生まれ変わり続けるこの場所で、2016年にお店を開いたのが
16期生の大久保武尊さん(31)だ。

「家でも仕事場でもない第3の自分でいられる場所」

となることを目指して今も進化を続けるお店への思い、そしてアフターコロナの展望を聞いた。

ビル2階にあるアクターズスクエアコーヒーの入り口

宮崎って、ちょうどいいんですよ

広島通りから若草通りのアーケードに入ってすぐ右側。ビルの2階に大久保さんがオーナーを務めるカフェがある。カリモクのソファや長椅子がゆったりと並ぶ店内を、大久保さん自らが選んだアンティーク照明の光が温かく包む。昼も夜も、幅広い年代の人がくつろぐ場所となっており、お店が地元から愛されていることが感じられる。

「宮崎って、とても居心地がいいんですよね。宮崎の人たちは肩肘張っていないというか、自然な感じの人達が多くてすごく過ごしやすい。みんな他人っていう感じがしなくて、『ここにいていいんだよ』って受け入れられている感じがするんです」

そう話す大久保さんの出身は福岡県。
高校のときから将来の夢はカフェ、ではなく「アンティーク家具の仕事」をすることだった。その夢に影響を与えたの一軒のお店。店内にはアメリカンアンティーク家具がずらりと並び、一角でカフェを営業する。夜には映画の上映もする。当時はまだ珍しかった雑貨カフェという形態が新鮮だった。

「そのアンティークショップに就職したいなって考えていたんですけど、両親に『何かしら大学に行って知見を広げろ』って言われて。じゃ大学で何がしたいかなって思ったときに、自分からいろいろ出ていって体験するような学びがしたいなって思ったんです。そしたら、宮崎公立大学を見つけたんです。いろんなものを選択した上でゼミが選べるというのが魅力でしたね。九州の南国・宮崎っていいなーって気持ちもあったので」

その当初の思いを爆発させるように、入学直後からいろんなことに挑戦していく。合気道、少林寺、バドミントン、軽音楽部。学外ではカフェでのアルバイト。ゼミは「いろんな角度から物事を考えることをしてみたい」とフィールドワークが特徴だった文化人類学を選んだ。

大学時代の写真

「将来、そのアンティークショップでドリンクを出すとしたら、美味しいものを出したいなと思ってカフェでアルバイトを始めたんですが、結局そのカフェが卒論のテーマになって。カフェに一体どういう役割があるのか、ラーメン屋や寿司屋に行くのともまた違う、余白のようなものがあるんじゃないかと思ったんです」

卒論でカフェをテーマにしても、この時点でカフェをしようなんて頭にはなかった。夢は変わらずアンティーク家具。両親に言われた通り大学で知見を広げ、福岡へと戻った。もちろん目指した先はあのアンティークショップだったが、肝心の求人が出ていない。ちょっぴり予想外だったが、そんなことは関係なかった。直接、お店へと売り込みに行った。

「結局、『何かしら社会経験を積んで、また来て』って言われてしまってダメだったんですよね。ほかの企業での就活も全然やる気が起きなくて、どうしよう、もうあとがないって。焦りも不安もあったんですけど、逆にそれがよかったんでしょうね。『絶対に認めさせてやる』って燃えました」

ふたたび、カフェへ

なんとか職を得たのが福岡県内で数店舗を展開するカフェバー。大学時代にアルバイトの経験があるとはいえ、就職した先は1店舗にスタッフが十数人と大所帯で規模が違う。当然、一番下っ端からのスタートだった。

「卒業したてだったので、『本当にこいつできるのか』みたいな感じでの入社だったんです。それが逆に、絶対に自分が一番になってやるって思えるきっかけになりました。激務で体もきつかったけど、楽しいなって思えたんです」

大型商業施設での期間限定出店を任されるなど着実に周囲に認められるようになっていた。そんなときだった。一本の連絡が届いた。

「社員を募集しようと思うんだけど、一応君には声をかけておこうと思って」

一度は断られたアンティークショップからだった。

「即決でしたね。カフェを辞めようって。カフェでの経験は本当に良かったと思っています。大学のアルバイト時代は人見知りで人と話すことが苦手だったんですけど、福岡ではお客さんからダイレクトに返ってくる反応がすごく良くて、喜ばれるっていうのを改めて感じていましたね。いろんな人と関わってチームワークでやることにすごく興奮しているなとも感じられましたし、苦手だったマルチタスクもできるようになっていたし」

カフェでの仕事はわずか半年ほどだったが、大きな収穫を得て、夢だったアンティークショップでの一歩を歩み始めた。

そこは唯一無二のアンティークショップだった

そのアンティークショップは社長を含めて3人ほどの小さな会社だったが、全国的にもあまりない特徴があった。一般的には仕入れたアンティーク家具をリペアして販売するが、そのショップは軽く拭く程度で壊れていていてもそのまま売る。テーブルの足がない、天板がない、椅子の座面がないのが当たり前。そのまま展示場に並べ、お客の要望を聞き出しながら使い方を提案していく。

自分の中にはカフェへの気持ちがあった

ずっと憧れてきたアンティークの仕事はやりがいに満ちていた。厳しい世界で慣れない物販の仕事でも、お客と一緒にアンティーク家具がある空間を作り上げていく喜びは大きかった。大好きなアンティークに囲まれた仕事で、あっという間に3年が過ぎていた。

その時、ふと気づく。

お客さんと話していても売上のことばかりを考えるようになっているんですよね。もっと売れたんじゃないか、もっと大きな工事を受けられたんじゃないかって。なんだか別人を演じているような気持ちになっていることに気づいたんです。プライベートでも友人が結婚式に誘ってくれても仕事を休めなさそうっていう考えが先に来てしまう。その時、大事な友だちの大事な場面に参加できないって俺はなんのために生きているんだろうって。もちろん仕事も大事なんですけど、そこで気持ちが冷めてしまって」

悩んだ末に、憧れて入社したアンティークショップを退職。そのショップが唯一無二の魅力を放っていただけに他のショップで働く気持ちにもなれなかった。

「いずれは自分のアンティークショップを持って、そこでドリンクを出したり、音楽を流したりしたい。そのために色々やってきたんです。しばらくブラブラしている間に、本当に自分に向いていたのはカフェだったんじゃないかって思えてきたんです。お客さんをもてなした結果として、喜んでもらえてお金をいただくほうが向いていたんじゃないか。目からウロコの気づきでした」

アンティークショップを辞めてから半年。将来はカフェバーを開きたいという方向に気持ちが固まり始めたころ、大学時代にアルバイトしていたカフェのオーナーから連絡が入った。

「そろそろ引退しようと思って、お店を引き継げる人を探しているんだ」

続きは後編でお伝えします!

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<なな会だより>近況報告リレー 16期生”大久保武尊さん”【後編】

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